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魔王の娘「よくも父上をころしたな!」死にかけ勇者「…。」改訂3

シリーズ
魔王の娘「よくも父上をころしたな!」死にかけ勇者「…。」改訂1
魔王の娘「よくも父上をころしたな!」死にかけ勇者「…。」改訂2
魔王の娘「よくも父上をころしたな!」死にかけ勇者「…。」改訂3



288: 名無しさん@おーぷん 2015/07/05(日)23:55:44 ID:TNx


医務室

船医「んもー、おじいちゃんなんだから無理しないでよね!」

消毒液だぱぁ

老水夫「…ッウ…つぅ…!!」

船医「痛いに決まってるじゃない!薬塗らなきゃ死ぬわよ!!」

船医「矢、抜くからね、押さえてて」

助手「ハイ」

ブスッ!!

ドクドクッ

老水夫「う、うぐっー!!!」

魔娘「じっちゃん!じっちゃん!…」

歯を食いしばって耐える老水夫

勇者「魔娘、外に出よう」

魔娘「っ…。」

ガチャ バタン

魔娘「勇者、ごめんなさい、魔娘が…部屋から出たから…」

ボロボロ

魔娘「じっちゃんが…!!」

勇者「…悪いのは海賊だ」

魔娘「ひっく…えぐっ…」

勇者「…。」

勇者「他の負傷者の手当てを手伝おう」

魔娘「はい…」

引用元:open2ch
289: 名無しさん@おーぷん 2015/07/05(日)23:57:13 ID:TNx



負傷者の手当てを手伝い、疲れて眠った魔娘

船室を出て医務室に行く勇者

勇者「どうだ」

船医「今手術が終わったけど麻酔で眠っているわ」

勇者「…悪いのか」

船医「…。」

船医「右腕はダメね。切り落とすしかなかった」

勇者「…。」

船医「とても…強い毒よ、身体の内側からあぶられるような痛みが3日間続く」

勇者「その後は」

船医「死ぬわ」

勇者 ギリッ…

船医「でも、直ぐに縛ってくれたから、腕だけですんだのよ。
あと1分遅ければ、毒は心臓まで達していた」

船医「労災もおりるし、うちの船会社は全員保険に入らせてるから、医療費も心配ないわ。
もうおじいちゃんだから、多分船に乗り続けるよりも豊かに暮らしていけるだけのお見舞い金が受け取れるわ。
魔娘ちゃんには、あなたから話してあげてね」

勇者「…そうしよう」

船医「腕を切り落とすことを話した時、彼は、魔娘ちゃんのことを気にしていたわよ」

勇者「…。」


290: 名無しさん@おーぷん 2015/07/05(日)23:58:05 ID:TNx


夜明け

魔娘「ハッ」

勇者「…。」

魔娘「勇者…じっちゃんは」

勇者「…腕はダメだったが、生命に別状はないそうだ」

魔娘「…。夢じゃなかったんだ…」

勇者「怖い思いをさせたな」

魔娘「魔娘は、平気だった。
でも、みんなのことが心配で、部屋にいられなかった…部屋にいなくちゃいけなかったのに」

勇者「…。」

魔娘「父上の時と同じで…みんな、死んじゃうんじゃないかと思ったら、部屋にいられなかったんだ…」

勇者(そうか…すまないことをした…)

魔娘「でも、勇者のいう通り、部屋にいたほうがよかったんだ、魔娘は…。
じっちゃんになんて謝ればいいんだ…」

勇者「魔娘が出てこなかったら、私があの矢にやられていた」

魔娘「…。」

勇者「彼には、私からも謝ろう。
…船医は、魔娘が直ぐに腕を縛ったことを褒めていたよ」

魔娘「…。」


314: 名無しさん@おーぷん 2015/07/06(月)13:45:36 ID:ivp


船は運河を通過し、大陸に囲まれた内海へと進む

内海のちょうど真ん中に位置する半島にある最後の港町で、レモンでできた酒とトマト、オリーブを積み、出港したのは4日前のことだ

航海28日目

水夫A「風も良いし、王国の港へはあと3日で着くだろう」

水夫B「この時期海は荒れやすいを季節嵐に遭う前に、着いてしまいたいな」



魔娘(あと3日で、勇者の城へ着くのか…)

カモメ クー クー

海風 そよそよ

魔娘(…。)



水夫A(魔娘ちゃん、あれからスッカリ元気なくなっちゃったな)

水夫B(老水夫の腕のこと、気にしてるんだろう)

水夫A(元気づけてやりたいなぁ…)

水夫B(こういう時はそっとしておくのが1番だよ)

水夫A(そうだよなぁ…)




カモメ クークー

魔娘(…。)


315: 名無しさん@おーぷん 2015/07/06(月)13:46:06 ID:ivp



勇者「魔娘、ここにいたのか」

魔娘「勇者…」

勇者「船医が、お前に話したいことがあるそうだ」

魔娘「…なんだろう?」

勇者「なんだろうな。ついてきてほしいか?」

魔娘「…ううん、大丈夫」

魔娘「行ってくる」

タタッ


316: 名無しさん@おーぷん 2015/07/06(月)13:47:00 ID:ivp


船医「呼びつけてごめんね~」

魔娘「ううん。何か用?」

船医「ちゃんとご飯食べられてるか、心配でね」

魔娘「…最近あんまり食べたくないんだ」

船医「そうなのね」

魔娘「あんまりおいしい味がしないんだ」

船医「そうなの…困ったわね」

魔娘「あ、料理番のせいじゃないんだぞ。料理はおいしそうだけど…」

魔娘(じっちゃんはもう魚は釣れないんだと思うと…)

ウルウル

船医「魔娘ちゃん」

船医「とっておきのお菓子があるから、一緒に食べましょう」

船医 砂糖をまぶした焼き菓子を出す


317: 名無しさん@おーぷん 2015/07/06(月)13:48:22 ID:ivp



船医「おいしいのよ~」

切り分け

船医「どうぞ」

魔娘「…ありがとう」

船医「いただきます」

パク

魔娘「いただきます…」

パク

もぐもぐ

船医「どう?」

魔娘「…甘くて、しっとりしてて、おいしい…」

船医「よかった!」


318: 名無しさん@おーぷん 2015/07/06(月)13:48:56 ID:ivp


船医「子供のころ、クリスマス前になると母が焼いてくれたの。
あの頃は貧しかったから、クリスマスだけの特別なお菓子がとっても楽しみだったわ」

魔娘(…。)

船医「毎日ちょっとずつ切って食べている私を、母は、にこにこしながら見てたわ。」

魔娘(魔娘は、母上のこと覚えてないけど、母上もそんな風だったのかな…)

船医「父は船乗りでなかなか帰って来られないし、物は手に入らない時代だったから、1人で子育てするのは本当に大変だったと思う。
でも、どんな時も母がにこにこしていてくれたから、私はとても幸せだった」

魔娘(…父上が人間のことをたくさん苦しめていたからだ…)


319: 名無しさん@おーぷん 2015/07/06(月)13:50:00 ID:ivp



船医「でも、ある日、母は突然倒れたの。
お医者さんには、栄養失調と貧血って言われたわ。
母は、育ち盛りの私に食べさせるために、自分は我慢していたのね。
私は、気づかなかったことを悔やんで、母の枕元で泣いて謝った」

魔娘 ウルウル…ポロ…

船医「母は、私をなでて、泣かなくていいって言ってくれた。
大好きな誰かのために生きることは、自分のために生きるより幸せがいっぱいなんだよって」

ゴシゴシ

魔娘「魔娘は…、そんなこと、考えたこともなかった」

船医「大人になれば、わかるよ。
魔娘ちゃんも大人になったら、自分の大好きな人に、自分が今まで誰かにしてもらったことをしてあげればいいのよ」

魔娘「うん…。わかった」

船医「ふふ。もっと食べて。紅茶もどうぞ」

パク

魔娘「おいしい。…初めのよりおいしい!」

船医「ふふ。」


348: 名無しさん@おーぷん 2015/07/06(月)23:22:37 ID:ivp


航海31日目

魔娘「勇者、島が見えたぞ!」

勇者の故郷の王国は、冷たい北の海に囲まれた、いくつかの諸島からなる島国だ

1番大きな本島に、王宮がある

船は、氷河によって深くえぐられてできたフィヨルド湾の奥に入っていった

港には大勢の国民が勇者の凱旋を祝おうとつめかけ、祭りのような騒ぎだった

魔娘「みんな、勇者の帰りを待っていたんだね!おかえりなさいって書いてあるよ!」

勇者「おかえりなさい、か…。
嬉しい言葉だ」

魔娘「うん」


船が着き、舷梯が降ろされると、積荷や乗客の降船が始まって、船着場はよりいっそう賑やかになった



349: 名無しさん@おーぷん 2015/07/06(月)23:23:09 ID:ivp


勇者「世話になった」

船長「いや、こちらこそ、勇者の最後の冒険に同行できて光栄だった」

航海士「勇者さんのご助言で、原因不明の高潮も回避できましたしね」

魔娘「さようなら、みんなのこと忘れないよ」

老水夫「魔娘ちゃん、体に気をつけてな」

魔娘「うん、じっちゃん、いろんなこと教えてくれてありがとな」

見習い水夫「魔娘、おねしょ直せよな」

魔娘「してないよっ!ばか!!」

勇者「行こう、魔娘」

魔娘「うん」

魔娘「あ…」

魔娘「じっちゃん、またどっかで会えるか?」

老水夫「港の端っこで、婆さんが小料理屋をしとるんじゃ。
わしはそこで手伝いをすることにしたよ」

魔娘「じゃ、すぐ会えるな!」

老水夫「うむ、いつでもおいで」

魔娘「うん遊びに行くよ!またね!」


350: 名無しさん@おーぷん 2015/07/06(月)23:24:26 ID:ivp

舷梯を降りた勇者と魔娘

城からの迎えの馬車が待っている

勇者「兄様…!!」

王子「おお、義弟よ!!」

ガシッと肩を抱き合う二人

王子「長い旅、大義であったな」

勇者「王子自ら迎えに来てくださるとは、感激致しました!」

王子「世界を救った男だぞ、迎えに来なくてどうする!
見てくれ、この大観衆を!
全国民が、英雄の帰りを心待ちにしていたのだぞ!」

勇者「身に余るお言葉…かたじけのうございます」

王子「して、そちらのお嬢さんは?」

勇者「魔王の城で保護しました。詳しくは王宮で話しとうございます」

王子「さようか、では、さっそく馬車に。」

魔娘「勇者、この人は」

勇者「姫様の兄様で、この国の王子だ。私の義理の兄だよ」

王子「かしこまらなくて大丈夫だよ、よろしくね。
さ、手をお貸ししよう。レディファーストだ」

魔娘「ありがと!」

勇者(これまで魔娘にレディファーストなどしてこなかったな)

勇者(もし、王にその御意志があれば、王は魔娘を養女に迎えるだろう。)

勇者(そうなれば、魔娘はこの国の王女…。
礼儀や作法に気をつけねばならなかったな。
平民の出だと、そういうところに気が回らん)


353: 名無しさん@おーぷん 2015/07/06(月)23:27:37 ID:ivp


王宮 王の間 厳めしい王様

国王「勇者よ…。
此度の遠征、まことに大義であった。
よくぞ帰って来たな」

勇者「陛下のお力添えがあればこそでございます。感謝いたしております」

国王「うむ。
そこに控える娘は?」

勇者「魔王の城で保護致しました。陛下の恩寵を賜ることが出来ればと、お連れ致しました」

国王「そうであったか。
お主の救った者だ、悪いようにはすまい」

勇者「恐れいります」

国王「それにしても、魔王討伐は、お主でなければなし得なかったであろう偉業だ。
言葉では言い知れぬ苦労もあったであろう」

勇者「は、それは…。」

国王「謁見はここまでとし、まずは長旅の疲れを労おう。
私の自室に通せ。」

お付きの者「はっ」


354: 名無しさん@おーぷん 2015/07/06(月)23:28:42 ID:ivp


国王の自室

国王「ふう…。ここでなら、ゆっくりと話せる」

勇者「…。」

国王「一人の父親としてな」

勇者「はい」

国王「そんなに堅くならずともよい。
聞かせてくれ、私の娘は…。」

勇者「…既にこの世を去った後でした」

国王「…そうか。やはりな。
…もう、とうに覚悟は出来ていた」

国王「君も、辛かったろう」

勇者「私の…私の力が及ばなかったばかりに」

国王「いいのだ、君はよくやってくれた。
自分を責めてはいかん」

勇者(陛下の心中をお察しすれば、姫様を奪還出来ずにおめおめと帰った私を許すことは出来まいに…。
お優しい方だ)

国王「国中はお祝いムードだが、事情が事情だ。
今宵の宴は姫を偲んでしめやかに行い、翌日以降の凱旋パレードも慎もう。
娘の葬儀は、日を改めて国中に告知し、厳粛に執り行う。
それでよいか?」

勇者「はい、御高配を賜り有難うございます。」


355: 名無しさん@おーぷん 2015/07/06(月)23:29:33 ID:ivp


国王「ところで、ずっと顔を伏せておるが…少女よ、名を聞かせてくれるか」

魔娘「魔娘です」

国王「おお、魔王の城からよくぞ…。」

国王「…?…!!」

国王「まさか…?そんなはずは…」

国王「わしの…わしの姫にそっくりじゃ…!!」

魔娘「…うん」

国王「これはどういうことじゃ、勇者…!?
魔娘は、姫の産んだ子どもなのか?」

勇者(偽りを通すことは出来まい。すべて、正直に話そう)

勇者「…はい」

国王「姫と…お主との…か?」

勇者拳をギュ…と握る

勇者「陛下、申し上げます」

ゴクッ

勇者「姫と魔王との、子でございます」


356: 名無しさん@おーぷん 2015/07/06(月)23:31:27 ID:ivp


陛下「なん…と…」

眼を覆ってクラクラとなる国王

勇者「陛下、お気を確かに…」

陛下「いや、わしは確かだ…
お主だ、勇者…。お主、正気か?
お主は、宿敵に、妻を…子を、産ませられて、その、子を…連れて帰って来る…なぞ…」

勇者「…陛下、魔娘は」

魔娘「勇者、もう、いいよ」

国王、ハッとして魔娘を見る

目に、今にもこぼれそうな涙を湛えた魔娘

魔娘「魔娘は、魔王の子どもだもん…、本当は、あの時勇者に殺される運命だったんだ…」

勇者「何を言う、魔娘。
お前は瀕死の私を殺さず、手当てしてくれたではないか」

勇者、魔娘の頭をガシッと抱く

魔娘「違う、それは、勇者が魔娘を見て、母上に、似てるって言ったから…」

ポロポロと泣き出す魔娘

魔娘「魔娘は、母上のこと、覚えていないから、教えて欲しくて…」

魔娘「初めは、そうだっただけ…。
でも、だんだん、優しい勇者が、好きになって…人間も、悪くないんだって、そう思って…」

魔娘「魔娘は、母上も父上もいなくなっちゃったけど、ここにくれば、本当のおじいちゃんに会えるって思って…」

ヒック、ヒック

魔娘「も、本当のおじいちゃんに会えたし、人間は、殺したくない、から、魔娘はどこか、静かな森で、暮らしたい、だけ」

国王「…。」


357: 名無しさん@おーぷん 2015/07/06(月)23:32:35 ID:ivp


国王「なんということだ…。」

国王、魔娘の前にひざまずいて手を取る

国王「すまない、私は…。
娘だけでなく、孫娘まで、失うところであった…。」

魔娘 ヒック ヒック

勇者「陛下…」

国王「勇者も、すまなかったな…。
1番辛いであろう君が、父親になろうとしておるというのに、私は…」

魔娘 ヒック…ヒック…

国王「見れば見るほど、姫に生き写しだ。
ハハハ、そういえば私は娘の涙に勝てたことなど一度もなかったわ…」

魔娘 潤んだ瞳で無理やりニコっと笑う

国王「勇者よ、魔娘ちゃんは、わしの養女にしても、お主の養女にしてもよい。
この子は姫が痛みに耐えて産んだ子だ。
愛情をもって育てよう。」

勇者「陛下…!!」

国王「姫は、根っから明るい、素直な子だった。
何を後ろ暗く思う必要はない。
この子の良いようにしてやろう。
姫も喜ぶであろうから」


358: 名無しさん@おーぷん 2015/07/06(月)23:33:46 ID:ivp

姫の昔の子供部屋

魔娘「わー!こんなドレス着ていいのか!」

侍女A「姫様の幼少時代にお作り致しましたワンピースですわ。
礼服ですから色味は地味ですけれど、仕立てが良いのでとても素敵ですわ」

侍女B「姫様もきっとお喜びになりますわ」

侍女A「さ、勇者様がお待ちです」



魔娘「えへへ!勇者!見ろ!似合うか?」

結婚直前の、照れながら似合うか聞いてくる姫がまぶたによぎる勇者

勇者「ああ、とても良く似合ってる」

魔娘「…。」

勇者「?どうした」

魔娘「う、ううん!なんでもない!」

魔娘(礼服の勇者…カッコいい!!)


359: 名無しさん@おーぷん 2015/07/06(月)23:35:51 ID:ivp


城の大広間

国王「本日は、我々が夢にまで見た日…!
魔王の悪意を打ち砕き、世界を恐怖と戦乱から救って下さった勇者が、この国へご帰還なされた日だ!」

会場の皆さん パチパチ ピューピュー

国王「惜しくも、勇者の妻であり我が娘である姫は、魔王の城で既にこの世を去っていた…。
国中が深い悲しみに沈むであろう。」

会場の皆さん しゅーん

国王「しかし、勇者は、姫の産んだ子である女児を魔王の城でみつけだし、見事、世界の果てより連れ帰ってきた!
これには、神の国に召された姫も、さぞかし喜んでおるに違いない!」

会場の皆さん わー!!パチパチ

国王「どうか、皆の者、今夜は我が姫を偲び、彼女の思い出を語らってもらいたい。
そして、この平和の世界を取り戻した勇者に感謝の意を伝えるひと時としたい」

会場の皆さん パチパチパチパチ!!

国王「王国よ永久なれ!」

会場の皆さん「「王国よ永久なれ!」」


377: 名無しさん@おーぷん 2015/07/07(火)21:22:44 ID:QvJ



盛大な立食パーティーが始まった

勇者は会場に集まった大臣や貴族や豪商から、たくさんの謝辞を受ける

みんな、世界に平和をもたらした勇者を賛美し、歓びをあらわにしていた

魔娘は、その容姿を姫に重ねられ、姫を失った人々の悲しみを癒やした

姫の死に打ちひしがれていた者も、口々に、魔娘が無事に王国にたどり着いたことを祝福するのだった

みな、勝利の美酒に酔い、しみじみと平和をかみしめ、亡き姫を偲んでいた



宴もたけなわを過ぎたころ



魔娘 うつらうつら…コクン

勇者「?」

勇者「魔娘、眠くなったか」

魔娘「うん…」

勇者「少し、隅で休もう」

隅の椅子に腰掛け、自分の方にもたれさせてやる勇者

魔娘 スヤスヤ…

勇者「…。」

勇者(疲れたのだろうな。
思えば、まだ8歳の女の子なのだ。)

安心しきった魔娘の寝顔を見ながら、いろいろ物思いにふける勇者


378: 名無しさん@おーぷん 2015/07/07(火)21:23:38 ID:QvJ


勇者(生まれ育った城を親の仇に連れ出されて…)

勇者(粗野な男との、9週間にも及ぶ不自由な旅)

勇者(健気に振舞ってはいたが、夜こっそり泣いていることもあった…)

勇者(果ては、つがえた毒矢に狙われて)

勇者(…。)

勇者(あの時は、止めようと必死で、狼藉者たちを全滅させてしまったが…。
あれは明らかに私を殺すために雇われた、殺し専門の技術者だった)

勇者(私が帰って来たことを、快く思わないものもいるということだ)

勇者(魔娘は、国王の養女として引き取ってもらうのが良いのかもしれない…)

勇者 深く考え込みすぎて、周りへの注意が疎かになる

全く気配を絶って、隣に近づく、フードを被った人間


379: 名無しさん@おーぷん 2015/07/07(火)21:24:47 ID:QvJ

神父「可愛い寝顔だなー。
本当に勇者の子?」

勇者「!?」

勇者「神父…!!」

神父「久しぶり。この薄情者。
ずっと連絡なかったから、わざわざガレー船で5日もかけて、本島まで駆けつけたんだぜ?」

勇者「それは、…すまなかった…」

神父「諸島地方の海は大荒れで、船を出してくれる船乗りを探すのが大変だったんだ。
途中何度も転覆しそうになったし。」

勇者「そうか、無事着いてよかった」

神父「まったく、それだけか。
お前は昔からそうだったよ。
まあ、とにかく。
また会えて嬉しいよ、兄弟」

勇者「ありがとう、兄弟」

握手を交わす二人


380: 名無しさん@おーぷん 2015/07/07(火)21:25:32 ID:QvJ


魔娘が眼を覚ます

魔娘の瞳を見て、驚く神父

しかし驚きを隠すかのようにまたニコっと笑う

魔娘「…勇者、この人、誰…?」

勇者「私の子どもの頃からの悪友だ。」

神父「ハハ、昔は二人でイタズラばっかりして怒られてたなぁ」

勇者「それが今は神父だもんな」

魔娘「神父なの?へぇ」

神父「よろしくね」

魔娘「うん」


381: 名無しさん@おーぷん 2015/07/07(火)21:28:12 ID:QvJ


楽しく昔話に花を咲かせる二人

時計が22時をまわった頃

神父「もうこんな時間か。
北海が荒れていたから、こっちも深夜には崩れ始めるぞ。
俺はそろそろ失礼する。
城下町の宿に泊まっているが、勇者も来るか?
久しぶりに飲み明かそうぜ」

勇者「いや、今夜はそうもいかん」

神父「そうだよな。じゃあな!」

勇者「うむ」

魔娘「バイバイ」



城を出る神父 空を見て険しい顔で呟く

神父「…。今夜は荒れそうだ」



神父を見送る二人

魔娘(…。)


382: 名無しさん@おーぷん 2015/07/07(火)21:28:51 ID:QvJ


暗い部屋

フードを被った男と、黒っぽい服に身を包んだ者たち

???「帰ってきてしまったな。
海賊にやられたことに出来れば、1番良かったのだが。」

暗部A「解毒薬のない毒も用意し、万全を期したのですが…。」

暗部B「奴にはヴァルキリーの加護がついているに違いない」

???「今日会ってみて、確信した。
やはりあの者は、危険だ。
ゆくゆくは、国を揺るがす憂慮となろう」

暗部一同「…。」

???「さらに、あの娘。
姫と、魔王との子であると、本人が言った」

一同 ザワッ…

???「…。」

???「勇者…。
どこまでも甘い奴だ。
生かしておくわけにはいかん」

???「あの娘には、魔女であることを自白してもらおう。
やることは…分かっておるな?」

暗部一同「ハッ」

暗部C「しかし、勇者は一体、誰が…」

???「私がやる」

暗部一同「…!!!」


389: 名無しさん@おーぷん 2015/07/07(火)23:41:23 ID:QvJ

国王の自室

姫の肖像画を見て涙を流している国王

国王「…姫よ。
やっと、私の元に帰って来てくれたな…」

脳裏に姫が生まれてから、8歳くらい頃までの思い出が蘇る

国王(姫を産んで妃が亡くなり、元気があればそれでよいとばかりに育ててしまったからな…
本当にじゃじゃ馬で…。
でも、私たちの愛しい娘だった)

9歳頃から、16で結婚するまでを思い出す

国王(初めてあの男を連れてきたときは、平民なぞと断固反対したな。
お前は妃に似て強情で、最後は私が折れるほかなかった…)

さらに、さらわれた夜のことを思い出す

国王(魔王の城に囚われて、息を引き取るまで…さぞ恐ろしく辛かったろう…)

国王(もし、勇者との結婚を許してなかったなら、今頃は…)


390: 名無しさん@おーぷん 2015/07/07(火)23:42:12 ID:QvJ

トントン

王子「陛下、失礼いたします」

ガチャ

国王「王子、遅くに呼び出してすまなかったな」

王子「いえ、この後は弟と飲み明かす予定でおりましたから。
構いません」

国王「…。」

王子「?」

国王「…。」

王子「陛下、いかがなさいましたか?」

国王「王子よ。
そなたは、跳ねっ返りの妹とは正反対に、実直に研鑽を重ねてきた。
お主ほど国を愛している者はおるまい」

王子「そんな、もったいないお言葉…父上、いきなりどうされたのです?」

国王「父だから言うのではない。
客観的に見て、大陸との三国同盟も、帝国との通商課税の緩和策も、成立したのはそなたの類稀な交渉の才あってのことだ」

王子「相手国が、陛下のご威光に答えたまでのことです。
それに、我が国には勇者という希望の星がおりましたから」

国王「あやつは見上げた男だ…しかし、政には向かん。」

王子「…。」

国王「そなたは、魔王が倒れるまでの暗黒時代、貴族や豪商に働きかけ、貧しい者を援け、国を支えた。
我が国の政策は、他の国にモデルとして活用されたのだ。
私は王として、父として、そなたを誇りに思っておるぞ」

王子「…そのお言葉だけで、私のこれまでが報われます」

国王「妃に先立たれ、姫を失った私が、それでも未来を信じ続けられたのは、次期王としてのそなたがあったからだ。
この国を、これからもせおっていってくれ」

王子「陛下と共に。
祖先から賜ったこの王国を、必ずや正しく導いて参りましょうぞ」


391: 名無しさん@おーぷん 2015/07/07(火)23:42:55 ID:QvJ


宴が終わり、寝室に向かう魔娘

魔娘「今日は魔娘は一人で眠るのか?」

勇者「うむ、これからは一人の寝室でゆったり眠れるぞ」

魔娘「…。」

勇者「隣の部屋には侍女もいるし、扉の前は近衛もいる。
大丈夫だ」

魔娘「勇者は、今日はどこで寝るの」

勇者「兄様が自室で飲み交わそうと誘ってくれた。
旅の話も詳しく話したいしな」

魔娘「そうなんだ。
じゃあ、おやすみ」

勇者「おやすみ、魔娘」

魔娘(さみしいなんて言ったら、勇者は困った顔をするんだろうな…)


392: 名無しさん@おーぷん 2015/07/07(火)23:44:16 ID:QvJ

王子の部屋

酒を酌み交わして談笑する王子と勇者

王子「ほう、それでその鏡を使ったのか」

勇者「ええ。
すると、その鏡に映ったのは、ぶよぶよと醜く太ったトロールで…」

王子「館の女主人に成りすましていたわけか」

勇者「私はゾッとして、即座に剣を抜きました」

王子「そりゃそうだよなぁ。
しかし、トロールに背中を流してもらう機会などそうそうないぞ!」

勇者「では今度兄様好みのトロールを見かけたら、背中を流してもらえるよう頼みましょう」

王子「はっはっは、そうしてくれ」

勇者「ハハハ」

ゴクゴク

王子「いかん、飲み終わってしまったな」

勇者「それでは、この辺でお開きに」

王子「まあ待て、最後に珍しい舶来の酒があるんだ。
世界を旅したお前でも、これは飲んだことがあるまい。
大吟醸千年美少女」

勇者「ありませんな」

王子「甘い花のような独特の風味が特長だ。さ、飲んでみなさい」

勇者「いただきます」

こく


393: 名無しさん@おーぷん 2015/07/07(火)23:44:25 ID:QvJ

王子「どうだ?」

勇者「これは…初めての味です」

王子「そうだろう。
口に合うか?」

勇者「強い香りが鼻を抜けて…少し舌が痺れるような…」

王子「そうか」

勇者「酔ったのか…視界も揺れて…」

ガク

勇者「…。」

王子「実に不合理な話だと思ってはいるがな、勇者。
この国は第一王子が王となるのが習わしなのだ。」

王子「しかし、世論の勇者人気は、それに反発するだろう現に、市井では早くも、勇者を国王に迎えんという声が大きくなっている」

王子「魔王の支配が終わり、世界が復興しはじめる大切なとき、内部分裂を看過することは出来んのだ」

王子「勇者、個人的に、お前のことを嫌っているわけじゃない。
もしお前が私の義兄であれば…私は喜んでお前を王に立て、その実務を負ったろう。」

王子「だがすまん。
私の天秤では、お前の命より国の方が重い」

王子「王国のために…死んでくれ」


394: 名無しさん@おーぷん 2015/07/07(火)23:45:33 ID:QvJ

地下牢

勇者「…うっ…」

暗部A「気づかれましたか」

勇者「あ…ここは…」

暗部A「城の地下牢です」

勇者(こんな部屋があったのか)

暗部A「あなたには、ここで遺書を書いて自殺していただきます」

勇者「…。それは自殺とは言わんな」

暗部A「ご心配ありません。
自殺に仕立て上げます。
遺書の内容は、姫を追って死ぬとのことでよいでしょう」

勇者「軽々しくそんなことを言うな」

暗部A「申し訳ありません。怒らせようと思ったわけではありません」

勇者「人に死ねと言っておいてか?」

暗部A「…そうですね」

勇者「急がずともいつか死ぬ。
今は死にたくない」

暗部A「ですよね。
ですからこそ、こちらにも用意がございます。
連れて来ていいぞ」


395: 名無しさん@おーぷん 2015/07/07(火)23:45:41 ID:QvJ

暗部Bがぐったりした魔娘を連れてくる

勇者「魔娘!!」

暗部A「眠らせているだけです」

勇者「貴様っ…!!」

暗部A「遺書を書かない場合の話をいたしましょう。
あなたは、心臓を刺されて殺されます。
この娘は貴方を殺害したことを認めるまで、拷問され、魔女として火刑に処されます」

勇者「!?卑劣な…!」

暗部A「しかし貴方がおとなしく遺書をお書きくださるなら、この娘の命は助けるとお約束いたします」

勇者「これが貴様らの王子の正義なのか!」

暗部A「王子が背負わなくてはならないのは、この国です。
我々のような瑣末な者の考えの及ぶところではありません」

暗部B「書くのか書かないのか?」

暗部B、魔娘のネックレスの鎖を掴み、首を絞める素振りをする

魔娘「うっ…ん…」

勇者「やめろ。書こう」


396: 名無しさん@おーぷん 2015/07/07(火)23:47:43 ID:QvJ

素直に遺書を書く勇者

魔娘が意識を取り戻す

魔娘「…?」

魔娘「ここどこ?」

暗部B「気がついたか」

魔娘「お前誰?
…!?どうして勇者が牢屋に入れられてるの!?」

勇者「これにはわけがある。
心配するな」

魔娘「わけって!
勇者は優しい人だもん、牢屋に入れられるようなことするはずない!」

魔娘 Bにすがりつく

魔娘「ねぇ、勇者を出してあげて!お願いだよぅ!!」

暗部B「うるさいっ!ガキは黙ってろ!」

暗部B 魔娘をはがして壁に突き飛ばす

魔娘「うっ」


397: 名無しさん@おーぷん 2015/07/07(火)23:47:52 ID:QvJ

暗部A「暗部B、手荒に扱うな。
勇者が遺書を書かなくなったらどうする」

暗部B「すまん」

魔娘「遺書ってどういうことだっ!!」

暗部Bに立ち向かう魔娘

しかし、絡め取られ床に伏せさせられる

暗部B「せっかくお前を見逃させるために勇者がおとなしく従っているんだ。
怪我したくなければ黙ってろ」

魔娘「!?
勇者は魔娘のために遺書を書いてるのか!?」

勇者「違うんだ魔娘、その人たちに従いなさい」

魔娘「嫌だ!!」

魔娘に潜在していた力が、キィンという音と共に爆発し、衝撃となって暗部達をたじろがせる

焦った暗部たちは、二人がかりで魔娘を羽交い締めにしようとした

魔娘「はーなーせぇ!!」

猛烈に身体をよじって暴れる魔娘

もつれ合ううちに、ネックレスの鎖が弾けて、形見の指輪が飛んでいく

その瞬間、魔娘は魔王に施された残虐な仕打ちを全て思い出した


398: 名無しさん@おーぷん 2015/07/07(火)23:48:10 ID:QvJ

魔娘回想中

魔娘「ふぐっ…グァア…!!」

魔王「痛いか?苦しいか魔娘…!
これが、人間共に食い尽くされるこの世界の痛みだ…!」

魔娘「ゼェッゼェッ…ぐっ…アガァアアーー!!」

魔王「憎め…愚かな人間共を憎め…!!
最後の一匹まで残さず、根絶やしにするのだ…!!」

魔娘回想終了

魔娘「…憎い…」

目つきが変わり、赤黒い光をまとう魔娘

魔娘「人間…憎い…!!」

勇者「ダメだ魔娘!!戻ってこい!!」

魔娘「コロス…!!最後の一人まで…!!あああああー!!!」

濃い瘴気を全身から噴き出し、地鳴りを響かせ叫ぶ魔娘

瘴気を間近に浴びた暗部たちは、一瞬にして昏倒してしまった

ドロリと濃い瘴気が地下牢を満たして溢れ、勇者もとうとう気絶してしまう

我を忘れたまま、魔娘は魔王としての本能のまま、王の間を目指した


399: 名無しさん@おーぷん 2015/07/07(火)23:49:33 ID:QvJ

異様な地鳴りと不穏な空気に、城は騒然となった

しかし、王子だけが冷静であった

兵士たちを速やかに指揮し、地下を封鎖した

そして、都中に、空気を入れぬよう戸締りせよとの伝令を走らせた

しかし、地下牢からの階段を上がってきた魔娘のあまりに濃い瘴気に、封鎖したドアはみるみる朽ち果て、腐り落ちてしまった

そして、魔娘を攻撃しようと近づいた兵士は、魔娘から5歩と近づけず次々に昏倒していった

報告を受けた王子は、対応部隊を素早く弓兵に切り替えた

しかし、そのときにはすでに城は怪しい赤紫色の立ち上る影につつまれ、空は幾重にも渦をまいたどす黒い雲に覆われていた

誰にも止められることのないまま、魔娘はフラフラと玉座を目指した

弓兵が配置につき、次々と矢を浴びせたが、魔娘の噴き出す瘴気に押しとどめられて、決め手にはならない

王子が、一度射撃を止めるよう指示したので、玉座に着いた魔娘と、周りを取り囲む弓兵とのこう着状態となった


400: 名無しさん@おーぷん 2015/07/07(火)23:50:48 ID:QvJ

姫「…あなた、あなた起きて…」

勇者「む…」

勇者が瞳を開けると、目の前には、衝撃により飛んできた指輪が転がっていた

無意識に、その指輪を握りとる勇者

その途端、勇者の目の前に、ぼんやりと光る姫が現れた

姫「あなた、助けに来てくれてありがとう。
ずっと信じて待っていたわ」

勇者「姫様…」

姫「そんな顔しないで。
ごめんね、生きて会うことが出来なくて」

勇者の頬を涙が伝って行く

姫「捕らえられて身体を暴かれて…死を選ぼうと思ったけど…出来なかった。
お腹にあなたとの赤ちゃんがいるかもしれないって、思っていたから」

勇者「むごたらしい目に合わせてしまった…。
しかし…え?」


401: 名無しさん@おーぷん 2015/07/07(火)23:50:58 ID:QvJ

姫「生理が遅れてたから…。
妊娠してる間はあなたの子だって信じてた。
でも、さらわれたときから指折り数えて44周目を過ぎても産まれて来なくて、魔王の子なんだってわかった」

勇者「…。」

姫「でも、そこまでお腹の中で大切にして来たから、どうしてもお腹の子を憎むことができなかった。ごめんなさい」

勇者「いや…君らしいと思うよ」

姫「ありがとう。
それでね、あの子を産み落としたとき、私は、魔王に復讐する方法を思いついたのよ。
あの子を、人の愛がわかる子にしてやろうって」

勇者 涙を拭いつつ、ふふ、と笑う

姫「だから、あなたにもらった愛の印を、あの子の首にかけたの。
指輪を外したら、息が苦しくなって、私は死んじゃったけど」

姫「最後にあなたに会えてよかったわ!先にあっちで待ってるから、たくさん幸せになってから来てね」

勇者「姫…待って、置いて行かないでくれ…」

姫「行ってあげて…。あの子が待ってるわ…だれが何と言おうと、あの子は私とあなたの愛の結晶よ…」

姫が消え、一人牢屋にひざをついている勇者


402: 名無しさん@おーぷん 2015/07/07(火)23:51:54 ID:QvJ


勇者 指輪を握りしめ、すくっと立ち上がる

いつのまにか、勇者の周りにも赤紫色の影が立ち上っている

牢の鉄格子に手をかけると、飴のように曲がった

魔娘の瘴気で昏倒した兵士をたどり、勇者は、魔娘を追った


422: 名無しさん@おーぷん 2015/07/09(木)00:56:07 ID:PCx

勇者が王の間に着くと、そこには玉座にちょこんと座って濃い瘴気を発している魔娘と、それを囲んだ弓兵と指揮をとる王子がいた

勇者「撃つな!!私の娘だ!!」

勇者は叫び、弓兵をかき分けて魔娘に近づいた

王子「勇者、死ぬぞ!
その娘はもはや人間ではない!!」

勇者「…。」

玉座へ歩いていく勇者

魔娘「…。」

落ち着きはらって近づいてくる勇者に、魔娘は敵意をむき出しにして唸る

人の言葉を失っている魔娘に、勇者は両腕を開いて微笑んだ

魔娘「…ゥッ…!?…ッ…!!」

理解出来ない行動に、魔娘は怯んで背もたれに身を寄せながら睨みつける

勇者はゆっくりと、魔娘を抱きしめた

怒りとおびえから、魔娘は抵抗し、渾身の力で勇者の首筋に噛みついた

勇者「大丈夫。
お前を迎えに来た」

食らいついた魔娘の口元から暗赤色の血がドロリと垂れ、流れていく

勇者「…守ってやれなくて、すまなかったな…」

指輪を握りしめた勇者の腕の中で、魔娘の力が抜けて行く

魔娘「…。」


423: 名無しさん@おーぷん 2015/07/09(木)00:56:51 ID:PCx

ついに齧り付いた首を離し、魔娘が勇者の眼を見つめた

魔娘「…勇者…」

優しい目をして、魔娘を見つめ返す勇者

我に返った魔娘から、赤黒い光が消え、噴き出していた瘴気が止まった

そのまま気を失った魔娘を、勇者は抱き上げた

その愛情に満ちた仕草に、見ていた弓兵たちはどうしていいか分からず、矢をつがえた弓を遠慮がちに下ろして行く

勇者は、オロオロしている弓兵たちの真ん中を悠々と歩いて、王の間の出口へと向かった

王子だけが、勇者に立ちはだかった

王子「何処へ行こうというのだ。
この娘はいづれ世界を滅ぼすだろう。
ここで死んでもらう」

勇者「王国に迷惑をかけるつもりはない。
私たちを行かせてくれ」

勇者の表情は穏やかだったが、声と目に有無を言わせぬ気迫があった

そのまま王子の横を素通りし、背を向けて歩く勇者

王子は無表情のまま、弓兵に、射よ!と短く命じた

ハッとした弓兵たちが急いで矢をつがえ、射た

勇者に何本かささったが、勇者は痛がるそぶりも見せずに、しっかりした足取りで王の間を出て行った


424: 名無しさん@おーぷん 2015/07/09(木)00:58:10 ID:PCx


王子は、死んでもおかしくないほどに深く矢がささっても、平然と歩いている勇者に唖然としたが、すぐに冷静にもどる

王子「勇者を城下町より港へ追いたてよ!
湾の両岸上の大砲で、海に沈める!」

兵士たちは、松明を持ち、馬に乗るため、準備に取りかかった。



城の外は冷たい雨が激しくうちつけていた。

堂々と門を通る勇者を、事情を知らぬ城の衛兵はそのまま見送ってしまった

勇者が通り過ぎて街道沿いの森に入った直後に、馬に乗った兵士たちが城下町へと駆け下って行った

勇者が森を抜けて城下町にはいると、民家の向こうに騎兵のもつ松明がチラチラと見えた

勇者は、まわりを見渡し、雨水用の下水道へ入った

そうして、ドウドウと流れる冷たい雨水の中を港の方へと流されていった


425: 名無しさん@おーぷん 2015/07/09(木)00:59:28 ID:PCx

勇者が流され出たのは、雨水を海へと流す排出口だった

しかし、太い格子がしっかりとはまり、勇者の体躯では外に出ることが出来ない

勇者は氷のように冷たい水の流れから、魔娘を守るように身体を丸めた

勇者「魔娘、目を覚ましてくれ」

魔娘「…。」

勇者は、冷え切った魔娘の背中を手のひらでゴシゴシとこすった

勇者「魔娘、頼む、起きてくれ…」

魔娘「…。」

魔娘「…!…勇者?」

勇者「よかった、気がついたか」

魔娘「…。」

弱々しい勇者の声を聞いて泣きそうな顔をする魔娘


426: 名無しさん@おーぷん 2015/07/09(木)00:59:56 ID:PCx

勇者「お前ならこの格子の隙間から出られる。
先に出なさい。
船着場の小舟を一艘借りて、この港を離れなさい。
陸伝いに行けば、2日ほどで豊かな森に出る。
そこで落ち合おう」

魔娘「でも勇者は?
どうやってそこにくるの?
ここから出られるの?」

勇者「私なら大丈夫だ。
さ、早く」

勇者は最後の力を振り絞って、格子の隙間から魔娘を外に押し出した

魔娘は格子に取りすがった

魔娘「いやだよ、一緒に行こう!」

勇者「お願いだ。必ず行くから」

勇者は魔娘の手のひらを取り、指輪を握らせた

勇者「約束だ」

魔娘「…ッ…。」

魔娘は、泣きながら格子を伝って港のヘリをよじ登った

勇者は、魔娘を逃がせたことで安心し、そのまま冷たい水の中へくずおれていった


427: 名無しさん@おーぷん 2015/07/09(木)01:00:24 ID:PCx



魔娘は、必死で雨が叩きつける中を走った

強い海風に煽られて、転んだ

身体を起こすも、ひざがガクガクとして立ち上がれない

勇者を失うことへの恐怖が、冷え切った身体を支配していた

魔娘「誰か…!」

まわりの民家はピッタリと戸締りをし、明かりさえ見えない

魔娘「誰かたすけて!!」

強い風と激しい雨音にかき消される声

魔娘「誰か、たすげ…っゴホッ!!だえか…!!」

ドシャ降りの雨が喉に入る


松明の明かりが一つ、近づいてきた


428: 名無しさん@おーぷん 2015/07/09(木)01:24:58 ID:PCx

老水夫「魔娘ちゃんかー!?」

魔娘「…!!じっぢゃん!!」

老水夫「おお、こんなに冷たくなって」

魔娘「じっぢゃん!!ゆうじゃが!!」

老水夫は、泣きじゃくる魔娘に連れられて排水溝へと向かった



魔娘「ごのながにゆうじゃがいる!!」

老水夫「大丈夫じゃ、泣かんでええ」

少し離れたところにあった、格子を上げるためのハンドルに手をかける老水夫

グッと力を入れる

魔娘「ダメだじっちゃん!!傷が開く!!」

急いでハンドルに手をかける魔娘

二人で力を合わせてまわすと、格子が少しずつ上へと持ち上がり、下の隙間から雨水と一緒に勇者が海へ流れ落ちた


429: 名無しさん@おーぷん 2015/07/09(木)01:25:49 ID:PCx



ためらいもなく荒れ狂う暗い海へと飛び込む魔娘

危うく見失いそうになりながらも、勇者を掴んで、海面へと引き上げる

魔娘「勇者!!起きろ!!死ぬな!!」

泣きながら頬をひっぱたく魔娘

勇者「…。」

魔娘「勇者…!!」

老水夫「魔娘ちゃん、つかまるのじゃ!」

浮き輪を投げる老水夫

浮き輪にしがみつくも、波に揉まれてどうしようもない魔娘

老水夫は、波しぶきのかかる桟橋におりて、浮き輪のロープを歯と左腕で手繰り寄せた

高い波にはこばれ、桟橋に打ち上げられる勇者と魔娘


430: 名無しさん@おーぷん 2015/07/09(木)01:25:56 ID:PCx

すぐさま勇者の息を確認しようとした魔娘だが、視界の端に追っ手の松明の炎をとらえた

魔娘「じっちゃん、魔娘は見つかったら殺されちゃうんだ!明かり、消して!」

老水夫は、松明を海へと投げ入れた

魔娘「舟で逃げないと…!」

老水夫「じっちゃんちの舟、使っておくれ」

魔娘「いいのか!?…ありがと!!」

老水夫が示した、桟橋に繋がれた小さな釣り舟に飛び乗り、勇者を引きずり入れる魔娘

言われるまま、アンカーを引き上げる

老水夫「魔娘ちゃん、必ず生きのびでおくれ…!!」

老水夫がロープを外すと、舟は波に引かれて進み出した

魔娘「じっちゃん!ありがと!!
これやる!幸運のお守りなんだ!」

老水夫が、投げられた指輪をキャッチしたのを見て、魔娘は舟を漕ぎだした


431: 名無しさん@おーぷん 2015/07/09(木)01:53:34 ID:PCx

老水夫が店のある自宅へと戻ったのとほぼ同時に、湾の両岸の高台にサーチライトが灯った

魔娘が必死で漕ぐ小舟は、あっけなくその位置をとらえられてしまった

奥に長く伸びるフィヨルド湾の中に、大砲の轟音が鳴り響き、水柱が立つ

波に揺さぶられ転覆しそうになりながらも、魔娘は大砲の玉が当たらないことを祈りながら、必死で小舟を漕ぎ続けた

柔らかな手のひらは、すぐに櫓に擦れてまめになり、全身は乳酸がたまって鈍く痛んだ

ぐったりと横たわったままの勇者の姿が、魔娘の心をキシキシと締め付けた


432: 名無しさん@おーぷん 2015/07/09(木)01:53:42 ID:PCx




魔娘の手の皮がズル剥けて、冷たさで足の感覚がなくなってきたころ、砲撃が止んだ

嵐の外海に漕ぎ出した舟が、無事では済まないことを、王子も、狙撃手たちも、知っていた。

勇者と魔娘を乗せた小舟は、強風になぶられ、高潮にもてあそばれながら、島を離れて行った


433: 名無しさん@おーぷん 2015/07/09(木)02:04:24 ID:PCx

二日間、舟は嵐に揉まれた

何度も転覆しそうになるたびに、魔娘は、かじかんだ手で必死に櫓を操った

冷たい雨と波しぶきに体力を奪われ、握る力もなくなり、3日目の夜明け前に、櫓は波間へとさらわれていった

3日目の日が沈んだ頃、体力が尽き果てた魔娘は、すっかり冷たくなった勇者の腕の中に横になった

嵐は弱まり、灰色の空から、雪がちらついてきた


434: 名無しさん@おーぷん 2015/07/09(木)02:21:20 ID:PCx



魔娘は夢を見ていた

暖かく大きな何かに抱かれている夢だった


ふと気がつくと、魔娘は、短い草に覆われた小さな島に漂着していた

空を見上げれば、悲しいほどに青く澄んでいた

ひどくこわばった身体を無理に動かして起き上がり、辺りを見渡すと、老水夫の舟が岸へ乗り上げていた

魔娘の身体には、勇者が羽織っていた外套が巻きついていた

魔娘(夢で見た暖かく大きな何かは、この外套だったのか…)

勇者と出会ってから、これまでの冒険が蘇り、涙へと変わる

魔娘「…勇者…!!」

外套を両手に抱き締めて、泣く魔娘


437: 名無しさん@おーぷん 2015/07/09(木)03:00:18 ID:PCx

勇者「呼んだか?」

魔娘の後ろからウサギと流木を持った勇者が現れた

魔娘「な…!え…?」

勇者「丸二日、死んだように眠っていたから心配したぞ」

魔娘「…!!」

魔娘「勇者…!!」

勇者に抱きつく魔娘

流木がカラカラと軽い音を立てて落ちた

勇者「目が覚めたら舟の上で、お前を抱き締めて寝ていたから、とても驚いた」

魔娘「うん…」

勇者「排水口から助けてくれたんだな、魔娘。
ありがとう。」

魔娘「うん…」

勇者「腹減っただろ?
肉を食おう」

魔娘「うん、食う…!!」


438: 名無しさん@おーぷん 2015/07/09(木)03:01:13 ID:PCx

パチパチ…ジュウ…

勇者「そうか…。
よく舟を転覆させずに逃げ切ったものだ」

魔娘「うん、手が痛かったよ」

勇者「そうだろうな、皮が剥けるくらいだ、ひどかったな」

魔娘「うん」

勇者「さあ、焼けた!食おう」

魔娘「いただきます!」

ハフハフ

魔娘「勇者、死んだと思ったのに、なんで生き返ったのかな」

勇者「前にもこんなことが有ったな…魔娘に会った時だ」

魔娘「あの時は血塗れだったね。
魔娘は見てただけなのに、しばらくしたら元気になってた」

勇者「…。」

魔娘「…。」

魔娘「あ」

勇者「?」

魔娘「父上が、父上の身体には自己再生の血が流れてるっていってたっけ」

勇者「…深い傷に、返り血を大量に浴びたから、私にも魔王の血が流れてしまったのか」

魔娘「そうかも」

勇者(だから王の間で魔娘を抱きとめたときも、昏倒しなかったのか…)

魔娘「?」

勇者「いや、なんでもない」

魔娘 ニコ!

ガツガツ ハフハフ


439: 名無しさん@おーぷん 2015/07/09(木)03:01:27 ID:PCx

魔娘「これからどうしようね」

勇者「私は、猟師に戻ろう」

魔娘「魔娘は?」

勇者「?
私の娘だろう。
一緒に暮らして行けばいい」

魔娘 ぱあぁ!

勇者「この島は、私の出身の北部諸島の一部だ。
舟でもう少し行ったところに、私が狩をしていた、森林の美しい島がある」

勇者「1年の半分は、まわりの海まで雪と氷に閉ざされる島だ。慎ましく暮らして行けば、追っ手もかからんだろう」

勇者「なにか生活に必要なものは、神父に相談すれば手に入れてくれるさ」

魔娘「やったー!」


440: 名無しさん@おーぷん 2015/07/09(木)03:22:42 ID:PCx

6年後

魔娘「勇者!見ろ!ウサギ獲れたぞ!!」

勇者「うむ、魔娘ももう、一人前の狩人だな」

魔娘「うん!!」

勇者(しかし全くおてんばのままだなぁ…早いうちに、婿になる者を見つけておかねば)



勇者「ところで明日、神父がまた、狩場へ遊びにくるよ」

魔娘「わーい!干しぶどうのチョコレート持ってきてくれるかな!」

勇者「その、どうだ?
魔娘もそろそろ年頃だろう。
よい香りの石けんやら、髪飾りやら頼んでもいいんだぞ」

魔娘「?」

勇者「あまり、女っ気がなさすぎると、嫁の貰い手が」

魔娘「大丈夫大丈夫!」

勇者「?」

魔娘「私、勇者と結婚するから!」


441: 名無しさん@おーぷん 2015/07/09(木)03:23:09 ID:PCx



勇者「…。」

はぁ…深いため息

勇者「魔娘は私の娘だ。
どこに娘と結婚する父がいるか」

魔娘「えー…」

勇者「魔娘の婿は、私が責任を持って見つけ…」

魔娘「じゃあ、あれがないといけないや」

勇者「?」

魔娘「ケバブ食べた町で売ってた、香油!
秘密の香油なんだよ!」




おしまい


445: 名無しさん@おーぷん 2015/07/09(木)09:54:36 ID:SyT

面白かった!乙!





魔王の娘「よくも父上をころしたな!」死にかけ勇者「…。」改訂
http://hayabusa.open2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1435584938/
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